2010年10月24日

総合安全防災誌『予防時報』243号

日本損害保険協会が発行している『予防時報』243号(2010年10月)

防災言「火災予防行政の転換」 有賀雄一郎(東京消防庁予防部長/本誌編集委員)

これまでの大規模店舗や宿泊施設に主眼を置いた火災予防対策から、小規模の雑居ビルや福祉施設、住宅の火災予防へと火災予防行政の視点が移ってきています。日頃の清掃や整頓といった心がけが有効で、関係者の防火意識の向上が必要です。

ずいひつ「大震災のほんとうの教訓は伝えられているか」 隈本邦彦(江戸川大学メディアコミュニケーション学部教授)

過去の災害では、近所の人や家族などに救出された人が多いにもかかわらず、救助隊の後ろを追うカメラが撮影した映像が報道されることで異なる印象が与えられてしまうことを指摘しています。実際の地震では建物や家具の下敷きになって、わずかな時間で命を落とす人が大半であり、救助や災害医療の体制整備だけでは解決できないとしたほか、震災後の火災も建物の倒壊と相関があり、「ほんとうの教訓」が「建物の耐震性がすべて」であることを伝える必要性を訴えています。

論考

「新型インフルエンザ対策を振り返って」 外岡立人(医学ジャーナリスト/医学博士)

2009年の新型インフルエンザ流行では、病原性などについて正確な情報が提供されなかったことからH5N1を想定した過剰な対策が実施されたり、根拠の乏しい感染予防法が広く流通するなどの混乱があったと指摘しています。また、感染率や致死率からリスクを5段階に分け、リスクに応じた対策を提案しています。

「地形・地盤と災害のリスク」 中井正一(千葉大学大学院工学研究科都市環境システムコース教授)

災害による被害には地形や地盤が大きく影響していて、地形と地盤の性質を把握することが災害危険度を知ることにつながります。日本の都市の多くは平野に位置していますが、平野の中でも沖積層の低地は洪積層の台地よりも災害の危険度が高いとされます。開発が進む前の古い時代の地図や、当時の土地の使われ方から表層地盤を推測することが可能です。また、微地形分類で「谷底平野」、一般には「谷戸」、「谷津」、「谷地」などと呼ばれている台地と低地の境界では地震動の増幅や斜面崩壊のリスクがあり、地形的に交通の隘路となりやすい斜面付近で建物や斜面自体が崩壊すると避難や救助活動、復旧を大きく阻害する恐れがあります。地盤災害や土砂災害は平野に位置する都市でも無縁ではありません。

「老朽化消火器のリサイクル処理とは」 香川晋一(消火器リサイクル推進センター取締役)

古くなった消火器の破裂事故や廃棄物処理法の規制に対応した消火器のリサイクル処理について。設置義務のない一般家庭などを中心に、耐用年数切れなどで更新を必要とする消火器が保管されていることが多いとみられています。また、粉末消火器に使われている薬剤の原料となるリン鉱石は希少な資源で、原料調達の観点からも廃消火器のリサイクルが求められています。一方、廃棄物処理法の規制のため、メーカーが単独で「広域認定許可」を取得しても自社製品しか引き取れず、販売代理店による有料の引き取りができないなどの制約がありました。これらの問題を解決するため、日本消火器工業会が「広域認定許可」を取得したうえで販売代理店を「特定窓口」として登録、リサイクルシステムの運用のために会員メーカー全社が出資する「消火器リサイクル推進センター」を設立しました。

「次世代環境対応自動車の安全について 〜電気と電池の観点から〜」 三石洋之(日本自動車研究所FC・EV研究部安全研究グループ)

開発や普及が進んでいるハイブリッド車や電気自動車、燃料電池自動車などの安全性について。モーターの駆動用として200~400V程度の高電圧が供給され、蓄電池が搭載されることから従来の自動車にはない安全要件が求められています。高電圧のケーブルが車室内を通過していることも考えられ、救助活動のために車体を切断する場合などにケーブルやバッテリーを損傷しないような配慮が必要となります。今後の普及が見込まれるリチウムイオン電池や燃料電池自動車の安全性や技術基準についても検討が進められています。

防災基礎講座「パワーハラスメントとメンタルヘルス」 和田秀樹(国際医療福祉大学大学院 教授/医師/和田秀樹こころと体のクリニック院長)

パワーハラスメントの判断基準は受け手がトラウマ(心的外傷)を受けたかどうかが重視され、以前であれば問題とされなかったようなことでもパワハラとされることが一般的になってきており、予防のため相手の立場になって考える「共感」の姿勢で接することが望ましいとしています。また、最近の学校教育で順位をつけることや強い指導を避ける傾向があることが「打たれ弱い」若者の増加につながっている可能性を指摘しています。

座談会「進化する気象情報」

過去のデータや経験に基づいた統計的手法から数値予報への移行や、気象情報の伝え方など。

出席者:隈健一(気象庁予報部数値予報課長)/酒井重典(日本気象予報士会会長)/新田尚(元気象庁長官)/藤森涼子(気象キャスターネットワーク代表/気象キャスター/気象予報士)/司会:藤谷徳之助(日本気象協会顧問/本誌編集委員)

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