2007年(平成19年)10月16日に神奈川県平塚市の西友平塚店で発生したエスカレーター事故について、保護板の寸法が旧建設省の告示で定められた基準を満たしていなかったと報道されています。
報道では、保護板全体の下端が手すりの上端から20cm以上下になるよう定められているにもかかわらず、端の円筒形の部分以外は2cm程度しかなかったとされています。
ですが、平成12年建設省告示第1417号「通常の使用状態において人又は物が挟まれ、又は障害物に衝突することがないようにしたエスカレーターの構造及びエスカレーターの勾配に応じた踏段の定格速度を定める件」には以下のように書かれているのです(引用した告示中の漢数字は算用数字に改めています)
- ロ 端は厚さ6ミリメートル以上の角がないものとし、エスカレーターの手すりの上端部から鉛直に20センチメートル以下の高さまで届く長さの構造とすること。
どうでしょうか。端は厚さ6mm以上の角がないものとし、(端は)エスカレーターの手すりの上端部から鉛直に20cm以下の高さまで届く長さの構造とするよう定めていると読めるのではないでしょうか。
今度は前後も含めて引用してみます。
- 三 エスカレーターの手すりの上端部の外側とこれに近接して交差する建築物の天井、はりその他これに類する部分又は他のエスカレーターの下面(以下「交差部」という。)の水平距離が50センチメートル以下の部分にあっては、保護板を次のように設けること。
- イ 交差部の下面に設けること。
- ロ 端は厚さ6ミリメートル以上の角がないものとし、エスカレーターの手すりの上端部から鉛直に20センチメートル以下の高さまで届く長さの構造とすること。
- ハ 交差部のエスカレーターに面した側と段差が生じないこと。
各号の細分の主語は保護板であり、以下のように解釈することがわかります。
- (保護板は)交差部の下面に設けること。
- (保護板の)端は厚さ6ミリメートル以上の角がないものとし、(保護板は)エスカレーターの手すりの上端部から鉛直に20センチメートル以下の高さまで届く長さの構造とすること。
- (保護板は)交差部のエスカレーターに面した側と段差が生じないこと。
一部分を抜き出すと分かりにくいけれど、全体としては正しい内容になっています。
それでいいのでしょうか。法令や告示の解釈を誤り、重大な事故を起こした事業者は責められてしかるべきでしょう。ですが、法令や告示が守られ、適正に運用されるためには、誤った解釈をされる可能性も最小限にしなければならないはずです。
もちろん、法令や告示は、法令や告示として正しいことが第一に求められます。文語体で書かれた法令などを文語体のまま改正するような例は、わかりやすさより正しさが重要であることを踏まえれば必要なことでしょう。
ですが、今回の建設省告示はそうではない。保護板の端の寸法・形状の規定と、保護板の高さの規定を分けて記述すればよいのです。
- イ 交差部の下面に設けること。
- ロ 端は厚さ6ミリメートル以上の角がないものとすること。
- ハ エスカレーターの手すりの上端部から鉛直に20センチメートル以下の高さまで届く長さの構造とすること。
- ニ 交差部のエスカレーターに面した側と段差が生じないこと。
なぜこうしなかったのか、私には理解できません。単に正しければいいのではない。それが正しく伝わらなければいけないのだと私は思います。
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余談
建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号)の第3条あたりも正気の沙汰とは思えないですね。「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。」
の「できる」
が「団体を構成し」
にはかからないなんて、分かっていても理解できません。