2012年7月10日

『災害復興研究』 第4号

《評論》なぜ、被災者の思いが実現できないのか? 室﨑益輝

東日本大震災の発生から1年が経過しても、被災地と政府を隔てるとてつもない距離感のために被災者の声が届かず、復興予算と称して被災地や被災者とは直接関係のない「大震災関係経費」に財源が大きく振り向けられるなどのためにコミュニティの崩壊や対立が起きていると指摘。人的支援の不足から復興計画や事業の推進も困難になっているとして、財源と人材を投入する必要があるとしています。

《評論》「棄民」つくらない総合的支援対策を構築せよ ─戻る人・戻らない人、双方の人権尊重を考える 山中茂樹

福島第一原子力発電所事故により避難した被災者への支援や、避難した人たちが故郷へ戻りやすくするため「セカンドタウン」を活用した三段階帰還について。

《報告》東日本大震災における県外避難者への支援 ─受入れ自治体調査結果から 田並尚恵

県外避難者の受入、支援や総務省による「全国避難者情報システム」の活用状況、今後の災害における課題などについて。

《論文》津波碑は生き続けているか ─宮城県津波碑調査報告 北原糸子・卯花政孝・大邑潤三

過去の津波で建てられた宮城県内の津波碑の状況について。

《報告》関東大震災における避難者の動向 ─「震災死亡者調査票」の分析を通して 北原糸子

東京都慰霊堂に保管されている、関東大震災で亡くなった人を記録した「震災死亡者調査表」の分析結果。

《論文》東日本大震災法律相談解析結果から導く行政機関の新業務継続計画(新行政BCP) 岡本正

日本弁護士連合会が取りまとめた「東日本大震災法律相談分析結果」をもとに、被災地域別や時間経過による相談内容の傾向を調べたうえで、行政機関がBCP(業務継続計画)として取り組むべき項目として情報提供機能の維持を挙げて優先して提供する情報やBCPの実効性確保のための施策などを提案しています。

《報告》東日本大震災における弁護士の被災者支援の軌跡 永井幸寿・津久井進

東日本大震災の発生を受けて行われた法律相談やADR(裁判外紛争処理手続き)、立法提言などの取り組みについて。

《評論》東日本大震災における自治体の独自施策 山崎栄一

東日本大震災の被災者や県外避難者を支援するために行われた地方公共団体独自の施策について。

《研究会報告》災害医療におけるトリアージの法律上の問題点 永井幸寿

災害現場で実施されるトリアージについて、7割以上が適切な判断であれば適正とされるような事情を無視して刑事・民事上の責任を問われる可能性があることや、トリアージが医療行為であって救急隊員や看護師が行うことは医師法違反に当たることを指摘し、免責や実行者の権限を法制化することを提言しています。

《研究会報告》災害医療におけるトリアージをめぐる法的課題の検討 トリアージ研究会

民法の緊急事務管理に関する規定が「よきサマリア人法」に相当する効果を及ぼすなど民事上の責任は問われないと考えられるとしたうえで、医療関係者の負担を軽減し刑事免責も実現するための法整備を提案しています。

《研究会報告》トリアージとは? 吉永和正

トリアージの概念や手法などについての解説。

《論文》バングラデシュ・サイクロン被災地域におけるコミュニティ再建に関する研究 ─ジェンダーに配慮した住民参加によるサイクロンシェルターマネジメントガイドラインの作成過程における考察 斉藤容子・室﨑益輝

2007年(平成19年)と2009年(平成21年)のサイクロンにより被災した地域でのサイクロンシェルター運営の現状とジェンダーに対する配慮を重視した避難所運営のためのワークショップについて。

バングラデシュでは社会的・宗教的背景からシェルターの運営や避難行動でも女性が不利な立場となっています。

《提言》災害ファイナンスの確立に向けて 加藤進弘

二重ローン問題を回避する制度として、被災状況に応じて住宅ローンの残債を補償する「信用地震保険」の創設やBCP策定企業に保証予約を行う「BCP対応災害補償予約制度」の拡充を提案しているほか、雇用・産業復興のために社会投資ファンドなどの民間資金を活用することや保険機能拡充のために再保険キャパシティの安定的確保などが必要と指摘しています。また、国や自治体の債務を財政としてだけでなく金融(パブリック・ファイナンス)ととらえた資金調達も求めました。

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