2011年10月13日

『消防科学と情報』No.104 2011年春号

巻頭随想 大規模災害に図上演習は効果が期待できるか
防災&情報研究所 髙梨成子

これまでは訓練進行上の問題などから図上演習・訓練に壊滅的被害のような極端な想定はされないことが多かったとしたうえで、訓練が生かされた事例や異動により訓練の経験者がいなくなったために被害を出した例などを紹介し、図上演習の柔軟な活用と継続が被害の極小化につながるとしています。

特集Ⅰ 東日本大震災(1)

東日本大震災からの復興に向けて
―地域防災計画の見直しを始めの一歩として―
東北大学大学院工学研究科付属災害制御研究センター教授 今村文彦

東日本大震災では、過去の災害記録をもとに策定された地域防災計画などの想定を超える規模の被害が発生し、福島第一原子力発電所の事故による二次被害や風評被害も起きていると指摘し、災害の全容を徹底的に解明して復旧・復興を実施しなければならないとしました。

東日本大震災・人的被害の面から 静岡大学防災総合センター 牛山素行

発災から7週間の2011年(平成23年)4月末の時点で地震と津波による死者・行方不明者の数に大幅な変動があることや、社会インフラの整備状況が大きく異なる明治三陸地震による津波(1896年)に匹敵する人的被害が生じたとしたうえで、明治三陸地震津波と東日本大震災による岩手県内の死者数を比較して被害軽減はできていたと分析しています。

いのちを救うこれからの津波観測システムの採用
関西学院大学社会安全学部長・教授(京都大学名誉教授)
阪神・淡路大震災記念人と防災未来センター長(兼務)河田惠昭

5分近くにわたってプレート境界の破壊が続いた東日本大震災では地震のマグニチュードを計算するのに時間がかかり適切な津波の高さの予測ができないことを指摘し、ケーブル式の地震津波監視システムやGPS波高計を使って常時観測を行うことが有効としています。

絶対に守らなければならないもの 東京大学名誉教授 島崎邦彦

ゼロか1かの単純な思考ではなく、きめ細かい対応と最悪の場合でも絶対に守らなければならないものを決めることが必要と指摘しています。

津波対策は失敗だったのか 東北大学名誉教授 首藤伸夫

1993年(平成5年)の北海道南西地震後に策定された「地域防災計画における津波対策強化の手引き」の考え方は東日本大震災後も有効であるとしたうえで、対策手法が防災関係者以外に共有されていなかったためほとんど実施されていなかったことを批判しています。

東日本大震災に対してどのように取り組むか
京都大学防災研究所 林春男

防災力をあらわす概念として使われるようになった「レジリエンス」について。東日本大震災におけるレジリエンスを科学的に記述・分析し、次の災害に生かせるようにする必要があるとしています。

提言 Blog防災・危機管理トレーニング主宰 日野宗門

津波被害を記録した映像を広く収集し共有財産として後世に残すことと、自分が住む土地の災害危険を知る義務や知らせる義務を課すことを提言しています。

東日本大震災に学びこれからを考える 名古屋大学教授 福和伸夫

東日本大震災では懸念していた被害がすべて起きてしまったとしたうえで、想像しなかった福島第一原子力発電所のような事故を防ぐにはシステム全体の安全性を俯瞰する力が必要としています。また、対応能力を超える災害の長期化で失われた信頼を回復するには今後予想される災害を徹底的に抑え込む唯一の道であるとしました。

震災からの復興は総合的に……防災は隠し味
関西学院大学災害復興制度研究所 室﨑益輝

震災からの復興ビジョンや計画の策定に当たっては「総論は早く、各論はゆっくりと」を原則とし、被災者が立ち直れないうちに高台移転のような各論を押し付けることは現に慎むべきと指摘しています。また、防災や安全だけでなく総合的・多面的に暮らしの総体を考える視点も必要とし、あくまでも「防災は隠し味」でなければならないとしました。

3つの疑問と今後の防災対策 東京経済大学 吉井博明

今後の防災対策を考えるうえで、なぜ巨大地震が起きたのか、なぜ津波からの避難行動が行われなかったのか、なぜ原発事故が起きたのかの3つの疑問を考える必要があると指摘しています。

特集Ⅱ 風水害図上演習

市町村の風水害対応と図上演習の活用方法 東京経済大学 吉井博明

豪雨災害などの風水害について、短時間・局所的に急激に変化する状況への対応が困難となったり、過去の経験に縛られて適切な対応ができない場合があることなどを指摘したうえで、図上演習により課題への対応能力を向上させることが可能としています。

集中豪雨を対象とした状況予測型図上訓練
Blog防災・危機管理トレーニング主宰 日野宗門

集中豪雨による災害への対応能力を高める手法として「状況予測型図上訓練」を紹介しています。

風水害図上型防災訓練における防災気象情報及び気象台との連携について
気象庁予報部予報課気象防災推進室 向井利明

図上シミュレーション訓練を通じて、目にする機会の少ない重要な防災気象情報について知ることや、訓練シナリオ作成で気象台などの情報発表機関と連携することが有効としています。

風水害と避難所運営ゲーム『避難所HUG(ハグ)』の実施と普及について
静岡県西部危機管理局危機管理課課長 倉野康彦

2007年(平成19年)に静岡県が開発した避難所運営ゲームについて。特に「楽しい」に力を入れて開発し、分刻みで避難者やイベントを設定したカードを読み上げることで災害の臨場感を再現するなどの工夫がされています。

市町村における風水害図上シミュレーション訓練のケーススタディ
消防科学総合センター研究員 胡哲新

規模が小さく災害の経験が少ない地方自治体でも実施可能な図上訓練について、実際に岐阜県神戸町で行った訓練を紹介しながら検討しています。

災害レポート

2010年インドネシア・メラピ火山噴火に学ぶ
京都大学防災研究所附属火山活動研究センター准教授 井口正人

メラピ火山の噴火などを例に、噴火活動が始まった後の活動推移を予測することの難しさや広域にわたって多数の住民を避難させなければならない事態に備える必要性を指摘しています。

平成22年奄美豪雨災害における自治体等の対応について
消防科学総合センター研究員 小松幸夫

2010年10月の豪雨災害について龍郷町と奄美市住用総合支所、コミュニティエフエム局のあまみエフエムにヒアリング調査を行った結果がまとめられています。避難所の確保が難しいために避難勧告・指示をためらったことや防災担当職員不在時の対応、防災行政無線などの設備の設置場所などの課題が挙げられています。

連載講座

連載第11回 水路工事で人の道を説く・川崎平右衛門 作家 童門冬二

慢性的な食糧不足のために農村で行われていた「間引き」の対策として関東の米の増産を進めた際、大岡越前守忠相の依頼で増反の指揮を執った川崎平右衛門について。

地域防災実戦ノウハウ(67)―地震時の防災活動のポイント その3―
Blog防災・危機管理トレーニング主宰 日野宗門

震度階級関連解説表について、阪神・淡路大震災の被害と合わせて実際に起こる可能性の高い状況を検討しています。

第3回 新たな地域防災対策への道(3)~平成の市町村合併により課せられた行政への新たな防災対策への課題~
鹿児島大学名誉教授 岩松暉
パスコ九州事業部 池邉浩司

「平成の大合併」で地方自治体が直面している課題について。地域防災力の再整備を行うだけの能力が不足していたり、職員数が削減され住民との連携や支援が十分でなくなるなどのほか、土地鑑がない地域での活動に自信がないといった職員の意見が紹介されています。

火災原因調査シリーズ(60)・電気火災「ポータブルDVDプレイヤー」から出火した火災について
静岡市消防局消防部予防課

消防大学校消防研究センターの支援を受けて、出火原因をリチウムポリマー充電池内部の短絡によるものと特定し、輸入事業者による無償回収につなげた事例が紹介されています。

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